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SUNGA 春画展~世界が、先に驚いた [★和の催し]

永青文庫
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2015/12/13のレポです。

しとしと雨が降る中、閑静な永青文庫は抑え気味の興奮を抱えた人々で埋め尽くされる。
これでもかというほど陰部が露わになった絵図の数々が展示されるが、不思議と背徳感はあまり感じない。
あまりに開放的なゆえと、解剖図のようにグロテスクに誇張された肉体の一部を、繊細なボタニカルアートを前にしたように真剣に眺める鑑賞者たちのなせる雰囲気もあっただろうと思う。

一種の閉ざされた空間において、ヒトの発する体温はその部屋の空気を変えることがある。
もしここで熱っぽく上気した顔を恥ずかしそうにうつむく女子などがいたら、だいぶ違っただろう。
一つの美の集大成を目に焼き付けるべく、真摯でひたむきな熱気が会場を包んでいた。

着物というのはつくづく便利なものと思う。
中心を帯で固定された布は、果物の皮のようにたやすくめくれあがり、一部を露出する。
海外のヌーディストビーチでなぜエロを感じないか。
それは最初から一糸まとわぬからであり、肉体というオブジェがそこにあるだけだが、「脱ぐ」という行為にはその延長上に愛という感情やまぐわいを想起させる。

だからなのか、大名の姫様たちの嫁入り道具としても春画は確立していたという。
この事実に驚いた。
確かに、豪華絢爛に装丁された巻物をすらすらと開いていけば、夜の指南書。
眉を落としたお局の口から説明されるよりも、絵の方が雄弁に語るだろう。

実際、匠による空刷りや豪華絢爛な装丁は目を見張るものがあった。
廉価な物では和綴じの豆本春画を、新年の挨拶として交換しあったという。
この風習は武士だけではなく市井でも勿論行われ、慶賀で春画を贈答するとは、一体どんな顔をしてどんな雰囲気でやりとりしたのだろう(笑)。おそらく《子孫繁栄》を願っています、という意味合いもあったのだろうが。

ポルノとしての役割としては、日清・日露戦争で戦地に赴く兵士に持たせたらしい。想像には難くない。

狩野派の手がける美術品として立派な物から、鈴木春信や喜多川歌麿のしっとりと風情のある睦み合いまでたっぷり堪能。
草草紙の下世話な物では、蛸やイカ、物の怪とのまぐわいもあったが、しかし、それにしたって、衝撃的だったのは「漁師と鮃」。
いくらなんだって鮃はないだろう、鮃は
異類婚姻譚の一つと捉えるか、変態と捉えるか。

【豆知識】
・永青文庫の建設は大林組
・現在の永青文庫から和敬塾敷地あたりまでの広大な土地は元細川家の下屋敷

【印象に残った展示物】
陽物涅槃図作者不詳、19世紀)…その名の通り《まら》が寝そべっている。宗教的おおらかさも垣間見える逸品
床の置物(菱川師宣、1681~84)…女性用の自慰の張型が描かれている。
絵本笑上戸(喜多川歌麿、1803)…局部拡大図の究極の姿
・葛飾北斎のどれか…立派な“息子”の絵図が多い中、包茎を描いたことが印象的
絵本開中鏡(歌川豊国、1823)…心中ものや死や暴力を描く。美しい
正写相生源氏(歌川国貞)…細川家婿養子の松平春嶽が贈答用に発注したと思われる
茶の湯の立初(作者不詳、19世紀)…新年の祝いの配り物。命名が小粋

1年12ヶ月にちなみ12人を娶った中国皇帝が描かれたり、四季折々の交わりを描く物も多かった。
確か柳沢吉保の孫、柳沢信鴻だったと思うが、日記に「春画を手に入れた」と記している。
後世に春画を買ったぜ!と伝わるのもどうかと思うが、春画は禁忌でもなんでもなく、至極当たり前のように存在していたことが実感できる資料だ。

結局、あまりに分厚すぎてこっそり見るには不向きな図版を諦め、喜多川歌麿の「歌まくら」の絵はがきを購入。
これ、男の人は目を開けているけれど女性はきっと目をつむってうっとりしているのだろうな・・・。
大好きな一品。

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